確率論の書籍の紹介です。現代確率論がどんなことやるのかはこちらをご確認ください。
- マルチンゲールアプローチ入門 の付録
この本は金融工学の書籍ですが、付録がとても秀逸なのであげておきます。現状、金融工学をガチでやろうとすると測度論的確率論が必須知識となりますが、いきなりこの分野に入ると現代数学の抽象的な記述に虐殺されます。これを緩和させるために、条件付期待値の理解を目標に、根元事象やσ加法族、確率測度、確率変数など確率論の登場人物たちの数学的に厳密な定義を、できるだけ平易に説明しており、確率論に挫折した人や初学者にかなりおすすめできます。
もちろん条件付き期待値までなので、それ以降は別の本で学ぶ必要がありますが、最初のハードルを下げるという意味で価値ある書籍かと思います。
- 確率論 数理物理学方法序説
同シリーズの複素関数論のルベーグ積分のパートを先に読むことを前提にしてます。現代確率論の最低限は本書籍に記載があります。数理物理の位置付けのため、分子混沌仮説やポアンカレの再帰定理など物理学の接点が多く登場します。少し触れるとラグランジュ力学系orハミルトン力学系の場合十分大きな時間が経てば任意の精度で初期値近傍を通るというものがポアンカレの再帰定理ですが、これは熱力学第二法則のエントロピー増大に一見矛盾しているように見えます。そこでボルツマンは、気体分子は弾性衝突をランダムに繰り返す、という分子混沌仮説を要請します。弾性衝突は保存力とは異なり何かしたらのポテンシャルの勾配で記述できるものではないため、ポアンカレの再帰定理と熱力学第二法則は同時に成り立っても矛盾しない、というようなものです。私は物理出身ということもあり、このあたりが非常に興味深かったです。
また関数解析との接点も多くあり、条件つき期待値を確率変数全体から構成されるヒルベルト空間を用いて定義していたり、ウィーナー測度の構成の際にハーン・バナッハの拡張定理や、リース・マルコフ・角谷の定理などを扱ってたりします。
上記のため、ラドン・ニコディムなどの確率論で標準的な内容をいくつか触れられてないこともあるので、そこはネットや他の書籍で補完する必要がありますが、なかなかの良書かと思います。
- 入門 確率解析とルベーグ積分
現代確率論はルベーグ積分を基礎として展開されており、そこに焦点を当てた書籍です。いきなり抽象的な定義をするのではなく、議論が進むにつれ徐々に数学的に厳密に定義していくスタイルをとっています。ルベーグ積分と確率論の全くの初学者には向いてるかと思いますが、現代数学のスタイルに慣れてる人には逆にまわりくどく感じるかもしれません。
- 量子数理物理学における汎関数積分法
本書は量子論で重要なファインマンの経路積分を現代確率論のことばで厳密に定式化することを目標にする書籍です。1章に確率論、2章に確率過程の話が載っており、最低限確率論を俯瞰できます。もう少し後ろの方で伊藤積分の説明もあります。この本も新井さんの書いた本で、説明は相変わらず丁寧で、なんとか自分も理解できます。ただ測度論、関数解析は既知前提なので、本書籍で確率論を学ぶ対象者は絞られてしまうかもしれません。
- 確率論
2022/02/28 追記
確率過程論で有名な日本の数学者伊藤清氏による確率論の書籍でじっくり確率論の深淵を学ぶにはうってつけの書籍です。
かなり厳密に確率論を論理展開していて、ちょいちょい関数解析の知識も必要になります。
現在5章の確率過程を読んでますが、私には難しいです。気長にじっくり読んでいきます。
かなり勉強になります。
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