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書評 微分幾何

微分幾何の分野について、書籍を紹介してみます。微分幾何の概要についてはこちらをご覧ください。

  • 理論物理学のための幾何学とトポロジー

その道ではいわゆる「中原トポ」と呼ばれる著名な書籍らしいです。物理学に必要な幾何学全般を扱ってます。技巧的すぎたり難易度が高い証明については敢えて割愛しており、その代わり定理の意味や使い方に重点が置かれていたります。そういう意味では厳密な数学書ではなく、物理学への応用に主眼をおいたものになります。日本の物理学者が英語で書いた数学の本を、数学者が訳した書籍という点でかなりユニークです。
最近第二版が出版されましたが、1巻のみで2巻は未定のようです。(上の図は1巻の表紙です)

ざっくり中身ですが、微分幾何学に関係あるのは、(2章,)5章,7章,(8章)です。一応1巻の目次全体を記載しておくと

1章:量子物理学、2章:数学からの準備(集合/位相)、3章:ホモロジー群、4章:ホモトピー群、5章:多様体論、6章:ドラームコホモロジー、7章:リーマン幾何学、8章:複素多様体

な感じですが、5章の多様体は現代幾何学の基礎となるので、しっかり読みこんだ方がいいです。多様体の定義に始まり、多様体上の微積分、微分形式やリー群/リー環など基本事項はほぼおさえているかと思います。7章で微分幾何の代表分野であるリーマン幾何について、計量、接続、共変微分と解説しており、こちらも基本事項はほぼ押さえているので、熟読してその概念を習得する必要があります。物理の応用を念頭においてる書籍だけあって、リーマン幾何の応用例として一般相対性理論とひも理論の初歩について触れています。

5章の補足のページで、微分位相幾何学(多様体のトポロジーを調べる分野)の内容が紹介されており、かなり興味深かったのを覚えてます。

  • 数理物理学方法序説 微分幾何学

最初は斜交座標から入り、ざっと多様体の説明をして、現代数学的な可微分多様体の説明に入っていきます。微分幾何学の父といわれているリーマンのゲッティンゲンでの講演の内容の記載があり、1850年代にすでに現代の量子力学や場の理論、相対論の示唆があるのは、さすが天才中の天才の洞察力といったところです。このリーマンの示唆した内容から現代微分幾何が展開されています。
一般相対論やゲージ理論といった現代物理学ではテンソルの成分のみを記載してテンソルそのもののように扱っているのは悪癖と一蹴しつつも、物理に近いところは物理の慣例通りテンソルの成分で展開し、数学的な説明の部分は座標系に依存しない形で説明しており、なかなかいい感じです。
個人的にもう少しファイバーバンドルの解説がもう少しあるとよかったかと思います。
最後になぜ、時空多様体が3+1次元なのか、なぜ量子力学/場の理論が成立するか、といった問いの回答が湯川秀樹の素領域理論を進化した量子モナド理論にあるとの紹介でおわります。量子モナドは定説にはなってない理論ですので、あまり気にしなくてよいです。。
全体を通してコンパクトにまとまっており、かつ同シリーズの中では比較的自己完結になっているのでこの本単独で読み切れます。

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