こんにちは、本日は前回の続きで、量子場から波動関数を導いてみます。これが物質場とは異なることもみていきます。
なお、本稿では演算子の記号「^」を省略します:ˆψ→ψ、ˆa→a。
1)波動関数の導出
前回の記事で場の状態はフォック空間で表されたかとおもいます。任意の場の状態は、フォック真空|0⟩に、ある生成演算子a†kたちを作用させることで得られます。例えば、kに1つ、k′に2つエネルギーをもつ場の状態|1k,2k′⟩は、
|1k,2k′⟩=a†k(a†k′)2|0⟩
となります。
さて前回の記事の通り、場の演算子ψは次のようにかけました:
ψ(x,t)=∑kakfk(x)exp(−iωkt)ψ†(x,t)=∑ka†kf∗k(x)exp(iωkt)。
時刻をt=t0と固定して、ψ†をフォック真空|0⟩に作用させてみます。
ψ†(x,t0)|0⟩=|x⟩
これは場所xにエネルギーが存在する場の状態、つまり粒子がxにいる場の状態と解釈することができます。同様に
ψ†(x1)ψ†(x2)=|x1,x2⟩
はx1,x2に粒子が存在する場の状態を表します。同様に
(n∏j=1ψ†(xj))|0⟩=|x1,…,xn⟩
は、x1,…,xnに粒子がn個ほど存在する場の状態です。
※一応補足ですが、ψ†(x,t),ψ(x,t)が位置x、時刻tに粒子を生成/消滅させると解釈できるのは非相対論的な場の場合のみに限られます。Dirac場などの相対論的な場を扱う際、シュレディンガー場のノリでいかないように注意が必要です。この由来は相対論の因果律が光速を越えないことに関係します。
さて、任意の場の状態|φ⟩を|x1,…,xn⟩で展開することを考えてみます。x1は位置を表すので、とりうる値の全体は連続値になります。したがって和は積分になるので、
|φ⟩=∫d3x1⋯d3xnφ(x1,…,xn)|x1,…,xn⟩
となります。ゆえに
⟨x1,…,xn|φ⟩=φ(x1,…,xn)
となります。すなわち、場の状態を{|x1,…,xn⟩}で展開した際の展開係数φ(x1,…,xn)がn粒子系の波動関数になります。
さて、場ψ(x,t)の空間次元は3次元の関数となり、物理的実体となる波動となりますが、一方波動関数φ(x1,…,xn)は、引数が3n次元の波動となるため、物理的実体としての波動ではなく、仮想的な(数学的な)波動となります。このためφ(x1,…,xn)は確率波とも呼ばれています。
本来量子化されるべき場は物理的実体としての波動であるべきで、波動関数のような仮想的な波動は量子化される対象ではありません。歴史的な経緯から場の量子化を「波動関数をさらに量子化する」ようにみえるので「第二量子化」と呼ばれることがありますが、あまり適切ではない表現です。
2)フェルミオン場の量子化
実は交換関係[ψ(x),ψ†(y)]=δ(x−y)はボソン場のみに適用できるものでして、フェルミオン場には適用できません。フェルミオン場には反交換関係
{ψ(x),ψ†(y)}≡ψ(x)ψ†(y)+ψ†(y)ψ(x)
を用いて量子化を行います。
{ψ(x),ψ†(y)}=δ(x−y){ψ(x),ψ(y)}={ψ†(x),ψ†(y)}=0
ボソンと同様に、シュレディンガー方程式に適当な境界条件を課して、固有値方程式
(–ℏ22m∇2+V(x))fk(x)=Ekfk(x)
によって何かしらの完全正規直交系{fk}が得られたとします。この{fk}を用いて
ψ(x)=∑kbkfk(x)exp(−iωkt)ψ†(x)=∑kb†kf∗k(x)exp(iωkt)
と展開します。bk,b†kは反交換関係から、
{bk,b†ℓ}=δkℓ
を満たすことがわかります。ボソン場同様、個数演算子はN=b†kbkとなります。このとき反交換関係からbkb†k=1–b†kbk、bkbk=0となるので、
N2=b†kbkb†kbk=b†k(1–b†kbk)bk=N−b†kb†kbkbk=N
すなわち
N(N−1)=0⇔N={0,1}
が成り立ちます。つまりフェルミオン場の場合個数演算子の固有値は0,1しかとらないことがわかります。換言すれば、同一のエネルギーには1つまでしかフェルミオンを配置できない、ということになります。これは量子力学でお馴染みのパウリの排他原理と呼ばれているものです。
最後に少し補足しておきます。電子の質量や電荷といった物理量はすべて等しいです。例えば水素原子を構成する電子と鉄原子を構成する電子で質量や電荷が変わることはありません。この理由は電子場という同じ量子場から発生するためで、質量や電荷というものは電子場に付随する物理量だからです。
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