1)背景
現代物理学では「場」が基本的概念です。場を一言でいうと、空間に広がっていて、時々刻々変化する物理量のことです。よく知られている例として電磁場や重力場の他、電子場やクォーク場などがあります。
場を量子化することで、粒子性が出現します。電磁場を量子化すると光子、電子場からは電子、クォーク場からはクォークという感じです。重力場の量子化はまだ成功してませんが、その量子の名前はグラビトンと呼ばれています。
量子力学のおける粒子性・波動性というのは、「場」から導出された副次的な概念と考えるのが現代物理学では一般的ですが、歴史的な経緯のためなのか、粒子性・波動性が両立する量子力学は錬金術や魔術的な扱いをしばしば受けます。
本稿では、粒子性/波動性のうち波動性は「場」の性質そのものですので、場から粒子性を導出してみます。さらに量子力学特有の波動関数も導出し、これが物理的実体としての場とは異なることを見てみます。
※最初に言ってしまうと場の状態の基底の選び方を変えたときの展開係数が関係しています。
なお、本稿は非相対論的な場であるシュレディンガー場に絞ります。
2)シュレディンガー場の方程式
非相対論的な場\( \psi = \psi (x,t)\)は、シュレーディンガー方程式
\[
i\hbar \frac{\partial \psi}{\partial t} = \left( – \frac{\hbar^2}{2m} \nabla^2 +V(x) \right)\psi
\]
に従います。これはラグランジアン密度
\[
\mathscr{L} = \psi^*\left( i\hbar \frac{\partial}{\partial t} +\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2-V(x)\right)\psi
\]
に\(\psi^*\)に関するオイラーラグランジュ方程式を適用することで得ることができます。
\(\psi\)に共役な運動量は\(\pi = \delta \mathscr{L}/\delta \partial_t \psi = i\hbar \psi^*\)となるため、ハミルトニアン密度\(\mathscr{H} \)とハミルトニアン\( H \)は
\[
\mathscr{H} = \pi\frac{\partial \psi}{\partial t}-\mathscr{L}
= \psi^*\left( -\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2 + V(x)\right)\psi \\
H = \int d^3x \mathscr{H}
\]
となります。
※本稿では天下り的に場のラグランジアンを具体的に指定して場の見たす方程式を導出しました。これをガリレイ変換に対する共変性からシュレディンガー場の方程式を導出することができます。詳細は割愛しますが、特殊相対論でのローレンツ変換は、非相対論のガリレイ変換にあたるのですが、シュレディンガー方程式はガリレイ変換に対して共変でないです。そこで仮想的な次元を1つ追加して5次元にして、5次元のガリレイ共変な場に対して仮想次元に関する束縛条件を課すことで、シュレディンガー型の方程式が導出されます。詳細は量子力学特論を参照してみてください。
さて、シュレディンガー方程式に何かしらの境界条件を指定して、
\[
\left( – \frac{\hbar^2}{2m} \nabla^2 +V(x) \right)f_k(x) = E_k f_k(x)
\]
という固有方程式にできます。このとき\( \{f_k\}_k\)全体はヒルベルト空間の元で、完全正規直交系になります。調和振動子の場合は\( f_k = \exp(ikx)\)になったりします。
\[
\psi(x) = \sum_k a_k f_k(x) \exp \left( -i\omega_k t \right), \ \omega_k = \frac{E_k}{\hbar} \tag{*}
\]
となります。これを再度ハミルトニアンに代入して整理すると、
\[
\begin{align} H &= \int d^3x \psi^* \left( -\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2 + V(x)\right)\psi\\ &=\sum_k E_k a_k^*a_k \end{align} \]
となり、すっきりした形になることがわかります。
3)シュレディンガー場の量子化
さてここで、こちらの記事の冒頭でも言及した、場の正準量子化を行います。これは
・場を関数から演算子(作用素)に置き換える:\(\psi(x) \rightarrow \hat{\psi}(x),\ \pi (x) \rightarrow \hat{\pi}(x) \)
・交換関係にする:\( [\hat{\psi}(x),\hat{\pi}(y)] = i\hbar\delta(x-y) \Leftrightarrow [\hat{\psi}(x),\hat{\psi}^{\dagger}(y)] = \delta(x-y)\)
というものでした。演算子にする関係で複素共役「\(^*\)」をエルミート共役「\(^\dagger\)」にしてます。
\( (*)\)に場の量子化を適用します。
\[
\hat{\psi}(x) = \sum_k \hat{a}_k f_k(x) \exp \left( -i\omega_k t \right) \\
\hat{\psi}^{\dagger}(x) = \sum_k \hat{a}^{\dagger}_k f_k^*(x) \exp \left( i\omega_k t \right)
\]
を交換関係\( [\psi, \psi^{\dagger}] = \delta(x-y) \)に代入して整理すると
\[
[\hat{a}_k, \hat{a}_{\ell}^{\dagger}] =\delta_{k\ell}
\]
が得られます。またハミルトニアンは
\[
\hat{H} =\sum_k E_k \hat{a}_k^\dagger \hat{a}_k \equiv \sum_k E_k \hat{N}_k
\]
となります。
さて、\(\hat{\psi}\)や\(\hat{a}_k\)は演算子ですので、何かしらの定義域をもちます。それは場の状態を表すヒルベルト空間になります。
※実はこれは数学的になかなか厄介で、場の状態全体はフォック空間と呼ばれる集合で、ざっくりいえばフォック空間はヒルベルト空間の無限直和の空間となります。
これを\( \{ |n_k\rangle\}\)と置きます。このとき\(\hat{N}\)はエルミートなので、
\[
\hat{N}_k|n_k\rangle = n_k | n_k\rangle
\]
なる固有値\(n_k\)は実数になります。さらに
\[
n_k = \langle n_k| \hat{N}_k | n_k\rangle = \langle n_k| \hat{a}_k^{\dagger}\hat{a}_k | n_k\rangle
= \bigg | \hat{a}_k | n_k\rangle\bigg |^2 \geq 0
\]
であるから、正の実数になることがわかります。
交換関係から\( \hat{a}_k^{\dagger} \hat{a}_k =\hat{a}_k\hat{a}_k^{\dagger}-1\)が言えるので、
\[
\begin{align}
\hat{N}_k \hat{a}_k | n_k\rangle
& = \hat{a}_k^{\dagger} \hat{a}_k \hat{a}_k | n_k\rangle
=(\hat{a}_k\hat{a}_k^{\dagger}-1 )\hat{a}_k | n_k\rangle \\
& = (\hat{a}_k\hat{N}_k-\hat{a}_k) | n_k\rangle
=(\hat{a}_k n_k – \hat{a}_k) | n_k\rangle \\
&=(n_k -1 )\hat{a}_k | n_k\rangle
\end{align}
\]
となります。すなわち演算子\( \hat{N}_k \)に関して、状態\( \hat{a}_k |n_k\rangle\)は状態\( | n_k\rangle \)とくらべて\(1\)小さい固有値をもつことになります。
同様に\(\hat{N}_k\hat{a}_k\hat{a}_k | n_k\rangle = (n_k-2)\hat{a}_k\hat{a}_k | n_k\rangle\)となります。\(n_k\)は正の実数でしたから、これをひたすら繰り返していくと、どこかのタイミングで \(n_k\leq 1\ \)になり、追加でさらに\(\hat{a}_k\)を作用させるとマイナスになりますが、これは\(n_k\)は正の実数であることと矛盾してしまいます。ゆえに\(n_k\)は非負整数である必要があります。
したがって、\(\hat{a}_k\)を\(n_k\)回作用させると
\[
\hat{N}_k (\hat{a}_k)^{n_k} | n_k\rangle = (n_k-n_k) (\hat{a}_k)^{n_k} | n_k\rangle = 0
\]
となるエネルギーが最も低い状態が存在することがわかります。\( (\hat{a}_k)^{n_k} | n_k\rangle \)をフォック真空とよび、\(|0\rangle\)で表します。
\(\hat{a}_k^{\dagger}\)に関しても同様の計算を実施して
\[
\hat{N}_k \hat{a}_k^{\dagger} | n_k\rangle=(n+1)\hat{a}_k^{\dagger} | n_k\rangle
\]
が言えます。
ハミルトニアンに\(|n_k\rangle\)を作用させてみると
\[
\hat{H}|n_k\rangle = \sum_k E_k \hat{N}_k | n_k\rangle = \sum_k E_k n_k | n_k\rangle
\]
となることから、\(n_k\)は\(E_k\)のエネルギーの個数を意味することがわかります。ここから\(\hat{N}_k\)を個数演算子と呼びます。
また上の結果から\(\hat{a}_k\)は個数の1つ減らす演算子と解釈できるので消滅演算子といい、\( \hat{a}_k^{\dagger}\)は個数を1つ増やすので生成演算子と呼びます。
以上から個数演算子によってエネルギー\(E_k\)の個数を1つ、2つ、、、と数えることができ、生成消滅演算子によってその個数を増減させることができることになります。これが量子場から導出された粒子性になります。
例えば電磁場が高エネルギーであるということは、生成演算子によってたくさんの光子が発現していることを意味します。逆に電磁場が低エネルギーとなるには消滅演算子によって光子の数が少なくなるイメージになります。
超伝導で重要な役目を担うフォノンについても同様です。格子振動を場ととらえ、量子化した場の励起した単位1つ1つをフォノンと定義する形です。
4)まとめ
今回非相対論的な場であるシュレディンガー場に生成消滅演算子を導入して量子化を行いました。この結果エネルギーの単位が出現し、これが1つ2つ、、、と数えられるようになりました。これが量子場の粒子性になります。
ちょっと長くなってきたので、本稿は以上にしたいと思います。波動関数の導出について別記事に記載したいと思います。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
質問等はコメント欄かお問い合わせにてよろしくおねがいいたします。
「サラリーマンが場の量子論を勝手に解説する無謀な記事8」への1件のフィードバック