前回関数解析におけるスペクトルを紹介しました。今回は少し例を挙げてみます。
※本記事もこちらで紹介した本を参考にしてます。
1)掛け算作用素
ヒルベルト空間H=L2(X,F,μ)上の線型作用素Mψ:L2(X)∋f→Mψ(f)∈L2(X)を
Mψ(f)≡ψ(x)f(x), ∫X|Mψ|2μ(dx)<∞
を掛け算作用素といいました。(こちらも参考にしてください。)
掛け算作用素のスペクトルですが、Iを恒等作用素として、ker(Mψ−λI)={0}かつ¯ran (Mψ−λI)=L2(X)=Hであることから、連続スペクトルであることがわかります。(DEF.14参照)
一般に掛け算作用素のスペクトルは
σ(Mψ)={¯ψ(x)∣x∈X}
であることが示せます。証明は省略しますが、新井さん本(量子力学の数学的構造Ⅰ)に詳しい証明があります。
上記から、例えばψ(x)=xnであれば
σ(Mψ)={Rn is odd[0,∞)n is even
であることがわかります。
ここで
ψ−1((−∞,λ])={x∈X∣ψ(x)∈(−∞,λ]}
とし、こちらで定義したように指標関数をχA(x)とします。これらを用いて、スペクトル測度を
Eψ(λ)≡Mχψ−1((−∞,λ])
で定義するとMψのスペクトル分解は
Mψ=∫XλEψ(dλ)
であたえられます。例えばMψ=Mx=xとした場合、Mx=∫λdMχ(−∞,λ]となります。
2)微分作用素
L2(X)上の線型作用素p:L2(X)∋f→pf∈L2(X)、
pf≡−i∂f∂x
となる微分作用素について考えます。この作用素の定義域が
dom p={f∈W12([0,1])⊂L2([0.1])∣f(1)=f(0)}
となるとき自己共役になるのでした。(こちらも参照ください。)このスペクトル分解について考えてみます。
まずpのスペクトルですが、ker(p−λI)={0}かつ¯ran (p−λI)=L2(X)=Hより、連続スペクトルとなります。
これは経験則ではありますが、微分を扱う場合フーリエ変換すると扱いやすくなることが多々あります。そこで今回もフーリエ変換Fを以下のように定義します。f∈L2(X)に対して、
˜f(k)≡Ff(x)=1√2π∫Xexp{−ikx}f(x)dxf(x)=F−1˜f(k)=1√2π∫k∈Kexp{ikx}˜f(k)dk
を満たす線型作用素Fをフーリエ変換といいます。
このとき、pのスペクトル測度を
Ek=F−1Ex(λ)F
で定義すると、pのスペクトル分解は
p=∫λEk(dλ)
で与えられます。
3)作用素解析
最後に少し作用素解析について触れておきます。作用素解析という言葉ですが、これは関数の代数的構造(和や差、積など)が作用素に写ったときどのように表現されるか、を調べることを指します。つまり写像T:C(X)∋f→T(f)∈B(H)が関数fの代数構造に対して、どのような代数構造になるかを解析することを作用素解析というイメージです。
こちらのTHM.4にて、連続関数f∈C(σ(A))に対して、
f(A)=∫f(λ)E(dλ)
が成り立ちます。これは例えば、f(A)=|A|であれば、
|A|=∫|λ|E(dλ)
とスペクトル分解できることを意味し、f(A)=Ar,r∈Rであれば、
Ar=∫λrE(dλ)
となることを意味します。
これは量子力学などのスペクトル分解でよく応用される式で、とても便利な定理です。
スペクトル分解の例を少しあげてみました。今回もかなり端折って説明してますので、詳細については書評であげた本を参照してみてください。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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